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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)10505号 判決

原告 マルチ・プロダクト・インタナシヨナル

被告 東亜興業株式会社

主文

一  原告の請求はいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し二万七五〇〇米ドル及びこれに対する昭和四六年一二月一四日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  第一次的請求原因

1  原告は各種商品の輸入販売を業とするアメリカ合衆国ニユージヤージ州法に基づいて設立された商事会社であり、被告はラジオ・テレビ等のキヤビネツト製造を業とする株式会社である。

2  原告は、訴外シルバニア・エレクトリツク・プロダクト(以下、「シルバニア」という。)に販売する目的で、昭和四四年五月二四日、被告との間で、被告が左記の内容のテレビキヤビネツトを製作して原告に供給する旨の製作物供給契約(以下、「本件契約」という)を締結した。

(一) 目的物 一九インチテレビキヤビネツト

(二) 仕様 原告提供の図面どおり

(三) 数量 一〇〇〇セツト

(四) 代金 F・O・B横浜、金一万八四八〇米ドル

(五) 特約 納入先のシルバニアにおいて組み立てさえすれば完成品となる状態で引渡すこと(いわゆるノツクダウン方式)

3  (不完全履行)

(一) (履行行為)

(1)  被告は本件契約に基づいて昭和四四年七月三一日前記商品一〇〇〇セツト(以下、「本件商品」という。)を横浜港で船積みし、右商品は同年八月二七日にアメリカ合衆国ニユーヨーク港に、同年九月中旬に販売先のシルバニアにそれぞれ到着した。

(2)  原告は同年八月上旬被告に対し前記代金を支払つた。

(二) (被告の給付の不完全なこと)

(1)  本件商品の多くは天井の板が枠組から剥がれていたり、やすりがけ仕上げが粗末であつたり、側面の板が剥離していたり、ベニヤが割れたり歪んだりしている等の瑕疵があつて使用に耐えない状態であつた。

(2)  (右瑕疵の具体的内容及び数量)

(A)  原告がアメリカ合衆国で昭和四四年一二月五日及び一二日に本件商品の中から無作為抽出で五〇個を選び検査したところ、使用不能の物が三四個あり、その内容は次のとおりであつた。

(a)  上板の剥離しているもの 一三個

(b)  ベニヤの継ぎ目が浮き上つているもの 一二個

(c)  ベニヤの継ぎ目にすき間ができているもの 五個

(d)  天井のやすりがけ不十分なもの 一〇個

(e)  天井の仕上げが粗いもの 五個

(f)  前の横木の切り口がギザギザになつているもの 一個

(g)  天井板が楓の木目になつていないもの 一個

(h)  天井板が継ぎはぎになつているもの 一個

(i)  仕上げに銀色のペイントが用いられているもの 一個

次に使用不能とまではいかなくても

(j)  側面のわん曲しているもの 一九個

(k)  裏面板の剥離しているもの 一七個

(l)  横木のわん曲しているもの 一六個

(m)  支え横木のつけ違いのもの 一二個

(n)  天井板の溝の深さ、幅が不十分なもの 五個

など瑕疵の見当らないものは皆無であつた。

(B)  更に昭和四五年三月三一日に鑑定を依頼されたテレビキヤビネツトの専門家モリス・マルコヴイツが、前記検査に供された五〇個のキヤビネツトを再検査し、梱包されたままの他の三五個のキヤビネツトを開包して検査したところ、前記以上の瑕疵の存在が確認された。

4  (催告・解除)

(一) 原告は被告に対し昭和四四年一二月頃、本件商品の瑕疵によつて生じた問題を解決(代替物の給付、損害賠償)すべく、被告会社の担当者を渡米させるように再三要請して右給付等の請求をしたが、これに応じなかつたので、昭和四五年四月二三日、尾崎弁護士事務所で本件商品の使用不能であることを被告に確認させた。

(二) 原告は被告に対し、昭和四五年五月六日付書面によつて本件契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示はその頃被告に到達した。

5  (損害)

被告の前記不完全履行により原告は次の損害を受けた。

(一) パシフイツク・スター・ラインに対し原告が支払つた本件商品の輸入荷物運賃 二四九三・七五米ドル

(二) 原告が本件商品につき支払つた関税 一四七八・四〇米ドル

(三) 原告がローナー・ゲーリツク社に対し支払つた本件商品についての通関仲介手数料 六二・〇〇米ドル

(四) 原告がパイロツト・フライト・キヤリーズ社に対し支払つた本件商品をシルバニアに運送するに要した国内荷物運賃 六三八・四〇米ドル

(五) 原告がアーヴイング・トラスト・カンパニーに対し支払つた信用状開設手数料 四六・二〇米ドル

(六) 信用状開設にともなう昭和四四年八月一四日から同年一二月一二日までの利子(アーヴイング・トラスト・カンパニーに対するもの) 六三一・四〇米ドル

(七) 原告は、本件契約締結と同時にシルバニアとの間で本件商品を代金二万七五〇〇米ドルで売却する契約を締結していたが、右商品に前記瑕疵があつたため契約の本旨にしたがつた履行ができず、シルバニアからその受領を拒絶され、右売買代金が得られなかつた。そのため原告が失つた右金額から、前記被告に支払つた代金及び右(一)ないし(六)の費用合計額を控除した得べかりし利益 三六六九・八五米ドル

6  よつて原告は被告に対し、前記契約解除による原状回復請求権に基づく前記代金一万八四八〇米ドルの返還、前記被告の債務の不完全履行に基づく損害賠償として右5(一)ないし(七)の損害金合計九〇二〇米ドルの支払い並びに右各金員の合計二万七五〇〇米ドルに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四六年一二月一四日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  第二次的請求原因

原、被告は前記1記載の営業目的を有する商人であり、原、被告は前記2記載の契約を締結し、本件商品は前記3(一)記載のとおり原告に引渡され、原告は代金を支払つた。しかし、右商品には前記3(二)記載の隠れた瑕疵があり、原告は右瑕疵の存在のために本件契約の目的を達することができなかつたので、前記4(二)記載のとおり被告との契約を解除した。右瑕疵の存在により原告の受けた損害は前記5記載のとおりであるから、原告は被告に対し、本件契約の解除による原状回復請求権と売主の瑕疵担保責任に基づき第一次的請求原因と同額の二万七五〇〇米ドルの支払い及びこれに対する前記昭和四六年一二月一四日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(準拠法についての原告の主張)

準拠法については当事者間に明示の合意は存在しない。本件契約は、日本において、被告が価格の見積りをし、原告が本件商品の形状、寸法等を示す図面を被告に交付し、書面を作成することなく口頭で締結されたものであるから、行為地は日本というべきであり、したがつて、本件契約の準拠法は日本法である(但し、商法五二七条は本件取引には適用されるべきではない。)。

三  第一次的請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1、2の事実は認める。但し、同2の契約の性質は売買と請負の混合契約と解すべきであり、右事実中の数量については、三〇〇〇セツトの売買予約が本件一〇〇〇セツトの試作品の売買契約とともに成立したものである。

2  請求原因3(一)の事実は認める。なお、被告は本件商品を昭和四四年七月一六日に横浜の保税倉庫に納めた。

3  請求原因3(二)(1) の事実は否認し、同(2) の事実は不知。被告は、原告側の立場で来日したシルバニアの専門技術者ロバート・コーホーツの指図により試作的に加工した仕上げのやすりがけの粗いものやとの粉を塗つたりしたもの等種々のもの五〇個を、同人の指図により本件商品の一部として原告に送つたが、原告は右試作品の五〇個を検査し瑕疵があると主張しているものと思われる。

4  請求原因4(一)の事実のうち、原告主張の頃、被告会社の担当者を渡米させる予定があつたこと、尾崎弁護士事務所で本件事件について話合いがもたれたことは認めるが、その余の事実は否認する。

5  請求原因4(二)の事実については、昭和四五年五月六日頃、前記日付の書面が被告に到達したことは認めるが、右書面により解除の意思表示をしたとの事実は否認する。右書面には本件商品に欠陥があり、その処分方法を被告に求める旨が記載されているにすぎない。

6  請求原因5の事実のうち、被告の債務の不完全履行によるとの点及び同(七)の事実は否認し、その余はすべて不知。同6は争う。

7  第二次請求原因に対する認否は右1ないし6の認否と同じであり、瑕疵担保責任の主張は争う。

四  抗弁

1  (買主の検査通知義務違反)

本件取引は商人間の売買であり、被告は本件商品を昭和四四年七月一六日に原告指定の横浜の保税倉庫に納入し、同月三一日に横浜港で船積みし、同年八月二七日にアメリカ合衆国ニユーヨーク港に、同年九月中旬に転売先のシルバニアに到着し、原告は右商品を受取つたのにもかかわらず、遅滞なく検査し直ちに瑕疵あることの通知をしなかつたので、原告は被告に対し、本件契約を解除することも損害賠償の請求をすることもできない。

2  (除斥期間)

瑕疵担保責任に基づく契約の解除及び損害賠償の請求は買主が瑕疵を知つた時より一年以内にすべきものとする除斥期間が存するが、本件において原告は、右期間内に権利行使をしなかつた。

3  (民法六三六条による免責)

(一) 原、被告間の契約内容は、いわゆるノツクダウン方式という特殊な方式を採用したので、キヤビネツトの製造についてはシルバニアからの専門技術者の指導指図によつて各種材料の選択、乾燥度合、色調等一切の仕様、製造工程が決定され、それにしたがつて製造するというものであつた。

(二) 右約定にしたがい、昭和四四年六月二四日から同年七月五日まで、前記ロバート・コーホーツが、原告社長とともに来日し、原告社長も承知のうえで被告を指導、指図し、キヤビネット製造に必要な合板、単材、接着剤、塗料等の製造資材を決定し、乾燥度合、色調、やすりがけ程度等もテストを実施したうえで定めたほか、製造についての一切の仕様を決定したものであり、また、梱包方法も原告側の指図により決定された。

(三) 仮に本件商品に原告主張の瑕疵があつたとしても、右瑕疵は、原告の右指図に起因するものである。

4  (特約による免責)

(一) 原、被告間には、本件商品の製造について、原告の指図、指導にしたがつて製造し原告の指定する横浜の保税倉庫に納入すれば、船積後に生じた本件商品の瑕疵については被告は責任を負わない旨の特約があつた。

(二) 原告主張の瑕疵が仮にあつたとしても、これらは船積後の経時上の変化、気温及び気候差による変化に起因するものであり、被告は前記特約により右瑕疵については責任を負わない。

五  抗弁に対する認否及び主張

1  抗弁1の事実中、本件取引が商人間の売買であること、本件商品の船積みの日時、アメリカ合衆国ニユーヨーク港、シルバニア到着の各日時はいずれも認めるが、遅滞なく検査しなかつたとの点及び瑕疵が存在する旨の通知を直ちにしなかつたとの点は否認する。

2  抗弁2の事実は否認する。

3  抗弁3(一)の事実はノツクダウン方式を採用したとの点は認め、その余は否認する。同(二)の事実中、ロバート・コーホーツ及び原告社長が被告主張の期間、日本に滞在したこと、サンプルを乾燥室に入れテストしたことは認めるが、その余の事実は否認する。本件契約は注文生産であるから、原告は被告に対し仕様書を交付する等製品のあるべき姿について指示したにすぎず、右の程度を越えた具体的作業手順等の指図は行つていない。原告社長及びロバート・コーホーツが被告工場を訪れたのは、被告に仕様書どおりの製品を生産する能力があるか否かを確かめるためであり、回数も東京都世田谷区所在の被告工場へ一回、川口市所在の被告工場へ二回行つたにすぎない。同(三)の事実は否認する。本件商品の瑕疵は被告の不注意、技術的拙劣によるもので原告の仕様書等による指示とは全く因果関係がない。

4  抗弁4の事実はすべて否認する。

六  再抗弁

1  (適時の検査及び通知の存在)

原告は、昭和四四年一〇月初旬、本件商品を検査し、その頃被告に対し本件商品に瑕疵が存在する旨を通知し、同年一一月初旬には原告代表者が来日して瑕疵ある本件商品の一部を被告代表者長沼富男らに示し、のり付け不良に起因する剥離が主な瑕疵であり、他の不良箇所も検査により明らかになりつつある旨の通知をした。更に、シルバニアの検査が終了すると直ちにその検査報告書を被告に送付して瑕疵の具体的内容についても通知した。

2  (除斥期間内の権利行使)

原告は除斥期間内である昭和四五年三月末頃、被告に対し口頭で二万米ドルの損害賠償の請求をし、同年四月二三日尾崎弁護士事務所で重ねてこれを請求した。また、原告は同年五月六日頃、被告到達の書面で本件契約解除の意思表示をした。

七  再抗弁に対する認否

再抗弁事実はすべて否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1、同2(但し契約数量の部分を除く)、同3の(一)の各事実は当事者間に争いがない。なお証人藤井孝治の証言及び被告代表者本人尋問の結果によれば、被告は本件商品を昭和四四年七月一六日に横浜の保税倉庫に納入した事実が認められる。

二  弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一五号証及び被告代表者本人尋問の結果によれば、被告は本件契約締結に際し、本件取引の直接の対象となつた一〇〇〇台のキヤビネツトの注文を爾後の量産のための試作品として受け、さらに他の二〇〇〇台についても製作の準備をしておくようにとの原告の意向を伝えられていた事実が認められる証人並河成年の証言、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は信用しがたい。

三  抗弁1につき判断する。

前示のように、本件契約の当事者である原告及び被告はいずれも商人であり、また、本件の如き製作物供給契約についても商法五二六条の適用があるものと解すべきである。また、同条に規定する検査、通知義務の前提となる目的物を受取るとは、買主側において目的物の検査が事実上可能となることをいうものと解すべきであり、売買契約の締結の際、売主及び買主間において、売買の目的物が買主から第三者に転売され、この第三者の許においてはじめて右目的物を事実上検査しうる状態となることが諒解されている場合においては、右第三者に目的物が到達した時をもつて検査が事実上可能となつた受取りの時というべきであり、本件の前示のような事実関係のもとにおいては、本件商品がシルバニアに到達した昭和四四年九月中旬をもつて、原告が本件商品を受取つた時と認めるべきである。

四  次に再抗弁1(適時の検査及び通知の存在)につき判断する。

1  (検査)

原告代表者本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第二一号証によれば、転売先であるシルバニアのキヤビネツト技術担当のロバート・コーホーツが、昭和四四年一〇月初旬に本件商品のうち約五台分を肉眼による外観検査(以下これを「目視検査」という。)をした際、ベニヤの継目が開いたり、ひび割れたりしているのを発見したことを認めることができる。また、原告代表者本人尋問の結果及びこれによりいずれも真正に成立したものと認められる甲第一九号証、同第二〇号証並びに前掲甲第二一号証によれば、同年一一月二一日頃、本件商品のうち約一五台の木製キヤビネツトを時の経過に伴ないどのように変化するか(以下これを「経時的変化」という。)をみるため加熱、加湿して直接目視検査をし、それらを組立て各部品の適合性を検査した事実、その際、側面板の溝切りの不適当なもの、ベニヤの継目にふくらみのあるもの、枠からパネルが反つたり、剥離しているもの等が発見された事実がそれぞれ認められる。原告代表者本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一号証の一によればマンハツタン・ケース・カンパニーに勤務するキヤビネツトの専門家であるモリス・マルコヴイツが昭和四五年三月三一日シルバニアで検査された五〇台のキヤビネツト及び梱包のままおかれ検査されていなかつたキヤビネツトを検査したところ、シルバニアの検査結果よりも多数の瑕疵が見い出された事実が認められる。

2  (通知)

原告は昭和四四年一〇月初旬の前記検査の後、直ちに被告に対し、本件商品に瑕疵がある旨の通知をしたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。もつとも、原告代表者は、同月の初旬に、シルバニアから本件商品に瑕疵がある旨の口頭での報告を受け、当時、原告の東京事務所の責任者であつた並河成年を通じて被告に対しその旨通知したと供述し、原告代表者作成の甲第九号証には右供述に副う記載があるが、右は、証人並河成年の証言及び被告代表者本人尋問の結果に照し、にわかに信用しがたく、仮に右並河から被告に対し何らかの連絡があつたとしても、それが本件商品の瑕疵の種類及びその大体の範囲を明らかにしたものであつたと認めるに足りる証拠はない。原告代表者本人尋問の結果、前掲甲第一九号証及び同第二一号証並びに被告代表者本人尋問の結果によれば、来日した原告代表者は、昭和四四年一一月下旬に被告代表者長沼富男に対し、本件商品の瑕疵ある一組とシルバニアにおける検査報告書(甲第一九号証、昭和四四年一一月二一日付)とを示して本件商品に瑕疵ある旨の通知をしたことが認められる。

3  思うに、商法五二六条第一項の通知が買主による目的物の受取り後直ちになされたか否かは、当該取引において買主が取引常識からみて当該目的物を検査するのに要すると思われる時間、通知が遅れたことによつて売主が損害を被る危険性、売主に早期に瑕疵の調査の機会を与える必要性等を比較検討して決すべきものと解すべきである。本件においては前示の事実により次の諸点が明らかである。

(一)  本件商品は昭和四四年九月中旬転売先のシルバニアに到着したが、シルバニアでは同年一〇月初旬約五個の梱包を開き目視検査をしたのみで容易に瑕疵の一部を発見したが、加熱、加湿による木製キヤビネツトの経時的変化をみる本格的な検査はそれから一ケ月以上経過した同年一一月二一日頃にシルバニアで行われた。このような本格的な検査が必要であつたとしても転売先のシルバニアは検査のための設備を有していたのであるから、原告は本件商品を受取つたのちシルバニアに委託する等して直ちに、かつ容易に瑕疵の有無を調査できたものというべきである。

(二)  本件契約締結に際し、被告は本件取引の直接の対象となつた一〇〇〇台のキヤビネツトの注文を爾後の量産のための試作品として受け、さらに他の二〇〇〇台についても製作の準備をしておくようにとの原告の意向を伝えられていたのでその製作の準備をしていた。

(三)  本件商品は経時的変化を生ずるおそれのある木製のキヤビネツトであるところ、被告がこれを横浜の保税倉庫に納入し、これが被告の手元を離れたのは昭和四四年七月一六日であり、また、原告が本件商品を受取つたのは同年九月中旬であるから、被告が同年一一月下旬になつて瑕疵の通知を受けたのでは、被告において、原告の本件商品受取時におけるその契約適合性や瑕疵の発生した原因等を調査することが相当困難である。

以上の諸点を総合して判断すれば、前記昭和四四年一一月下旬の通知は受取後直ちになされたものとはいいがたく、再抗弁1(適時の通知)はこれを認めがたい。

五  本件契約の準拠法

本件契約の準拠法指定に関する当事者間の明示の合意は、これを認めるに足りる証拠はない。

そこで本件契約上の債権の準拠法に関する当事者の黙示意思を探究するに、本件記録上、以下の諸点が明らかである。

1  原告代表者が昭和四四年四月頃来日し、被告代表者長沼富男らと契約内容の詳細な点に到るまで交渉した結果、被告の住所の存する日本において本件契約(FOB横浜)が締結された。

2  原告は東京都に連絡事務所を設置しており、本件契約の締結にあたつてその責任者であつた訴外並河成年が原告代表者の通訳をするほか交渉にもあたつた。

3  本件契約は、被告が日本において製造するテレビキヤビネツトを原告に供給するいわゆる製作物供給契約であり、原告の本件商品の転売先であるシルバニアの技術主任のロバート・コーホーツが原告代表者とともに昭和四四年六月下旬来日し、被告の本件商品の製作工場を訪れ、被告に対し本件商品の材料、製作方法について具体的な指図をし、被告はそれに基づいて本件商品を製作した。

4  本件商品に瑕疵がある旨の通知は、原告代表者が昭和四四年一一月下旬に来日し、本件商品の一部を被告側に手渡して行われた。

5  原告は、当裁判所に本訴を提起し、その準備手続期日及び口頭弁論期日において終始、準拠法は日本法であるとの意思を表明し(但し、商法五二七条は除く。)、被告もこれに応訴して同様の意思を表明した。また、被告の商法五二六条の主張に対しても、原告は準備手続期日(特に、昭和四七年九月一四日施行の第五回期日)、及びその後の口頭弁論期日において、その適用を前提にして反論している等当事者の日本法に準拠するとの意思が訴訟手続中に見い出される。

以上の諸点を総合すれば、本件当事者は本件商品の瑕疵の検査及び通知の方式並びに右期間の制限等を含めて本件契約の準拠法を日本法と指定する黙示の合意があつたものと判断するのが相当である。

六  以上のとおり、原告は商法五二六条所定の通知を直ちにしていないのであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴第一次的請求及び第二次的請求はいずれも失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柏原允 柴田保幸 高橋利文)

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